杉山光信「大衆社会」『岩波哲学・思想事典』(岩波書店、1998年)

 今日では大衆社会論はさまざまに批判され過去のものとなっている。たとえば戦前のドイツ社会について中間集団や媒介組織が弱体であったとされるが、ファシズム運動がそれほど広まらなかったフランスよりもそれらは強固であったなど、事実との不一致が指摘されている。だがそれよりも批判されるのは、この理論が普通の市民の政治その他の社会的場面への登場を好まない保守的ないしエリート主義的な論者によりイデオロギー的な偏りのもとで援用されることによる。また、1970年代からは西欧社会では新しい社会運動の展開が見られるが、この運動に参加するのはアトム化した個人ではなく相対的に社会に統合され強いモラル原則へのコミットに動機づけられている人びとなのである。