鷲田小彌太『昭和思想全史』(三一書房、1991年)

 しかし、私のみるところ、戦後思想は、松下圭一の問題提起によって、戦後固有の意味の歩みを開始した、といいたい。……戦後もちきたらされた、真に戦後的な思想の時間的・空間的特質を分析するに足る問題構成は、20代の半ばをすぎたばかりの一政治学松下圭一によってきりひらかれたのである。……
 松下が日本政治史上にもたらした新たな画期的視点とはなにか。「封建対近代」ないしは「近代対超近代」という対立図式でつかまれた従来の問題構成に対して、近代を「市民社会」と「大衆社会」という二分構成で把握すべきことを提起したことにある。ここで、「大衆(社会)」とは、「市民(社会)」に連続化されないばかりでなく、「労働者(社会)」にも連続化されない、固有の社会的歴史存在としてつかまれる。(p304)