『社会学事典』(弘文堂、1994年)

「大衆」(塩原勉)
この概念は複合的な意味をもっている。ブルーマーのように、集合体の下位類型として群集・公衆・大衆を概念化する場合には、大衆とは異質な属性や背景をもつ匿名の多数者からなる未組織の集合体を意味する。
19世紀末にル・ボンは「群集心理」を論じつつ大衆の登場を予告し、大衆の衝動性や軽信性などの非合理的性格を批判しながら、同時に旧秩序を解体する革新的性格を指摘し、大衆のもつ両義性に注目した。この見方は大衆社会論にも受けつがれており、マス・コミュニケーションや大量商品の受動的な受け手として、エリートに操作されている大衆が、一転して未組織のマス運動をおこしてエリートに打撃を与えるという見方がある。


大衆社会」(佐藤健二
近代資本主義の展開が、市民社会を存立させている制度や人間観の諸構造を変質させていることによって現れてきた社会の様相・状況をさす。
最も基本的なとらえかたとして、社会を「量」的巨大化の表象において認識する点、より詳しくいえば、生産様式の変化(とりわけ機械化・大規模化が中心に置かれる)と密接に対応する、社会・集団の形式の巨大化がひきおこす諸効果の認識は、「大衆社会」という用語の不可欠の要素であろう。
……すなわち、大衆社会現代社会の歴史的特質を、形態の側面において概念化したものであり、その形態に作用する効果の認識である。現代の社会関係の顕著な特質である量的な巨大化を、それを成立させた技術の様態までふくめて問題設定のなかにとりこみ、そこに作用する権力と主体の様態を対象化しようとするアプローチである。