『社会学小辞典』(有斐閣、2005年)

「大衆」
一般には、群集・公衆と区別され、大多数の人びとから成る集合体であり、社会的地位・階級・職業・学歴・財産などの社会的障壁を超えて構成され、異質性をその特質としている。大衆は互いに見知らぬ個人から構成される匿名的集団であり、そこでは非人格的関係が支配する。また未分化でルースに組織された集合体であり、明確なリーダーシップをもたず、巨大な非組織集団としての特徴を示す。


「大衆化」
社会の分化と拡大、大規模組織化が進行するなかで、人間はいままで自分を支え、庇護してくれた社会的絆を喪失し、自分を帰属させ、自分が誰であるのかを確かめるアイデンティティの供給源を見失う。こうして人間は帰属感と方向感覚の喪失による不安や逃避の傾向を示す。


大衆社会
一般的には、同一の注目の焦点に対して、社会成員が個々ばらばらに、しかし多かれ少なかれ類似したやり方で対応する社会が大衆社会である。大衆社会は大衆の決定が社会の動向を左右する社会であるが、産業国家化の進行、権力の集中化(官僚制化)、都市化の進展、さらには大量生産手段、交通・通信手段、大衆操作の手段などの発達によって、第二次集団の優位、地位と役割の分化、移動性、匿名性、非人間的接触などの傾向が支配的である。人間は社会への帰属感・連帯感情・親密感を失いがちであり、孤独と不安をいだきながら、制度化された権威が提供する刺激に対して、非合理的にまた情緒的に集合的な決定を下す傾向を示しやすい。


大衆社会論」
大別して、中間集団の解体によって原子化された個人が一元的に操作される点に大衆社会の特徴を見出す中間集団無力説(C.W.ミルズ、コーンハウザーら)と、巨大集団への個人の過同調と強制的画一化のうちにその本質を認める過同調説(リースマン、W.H.ホワイト)とがある。
二本では昭和30年代の前半にいわゆる大衆社会論ブームがあった。当時の議論は、アメリカ流の大衆社会論を資本主義社会に対するイデオロギー批判として展開する傾向が強くみられたが、最近では体制を超えた現代社会の特徴とその将来への発展方向を考察する重要な概念装置の一つとなっている。